メディアはファーストパーティデータ(1st Party Data)をどう活用すべきか?
なぜ今、ファーストパーティデータ(1st Party Data)が注目されるのか?
広告業界では、プライバシー保護の強化が急速に進んでいます。Cookie規制やIDFA制限により、これまでターゲティング広告の精度やリーチを支えていたサードパーティデータの活用が難しくなりつつあります。
2024年には、GoogleがChromeにおけるサードパーティCookieの廃止を延期したものの、「脱Cookie」の潮流は止まっていません。こうした背景の中で、媒体各社にとって注目が高まっているのがファーストパーティデータです。
自社で保有するユーザーデータをどう活用するかは、広告価値の再構築と収益最大化に直結する、今後のメディア運営における重要なテーマとなっています。
ファーストパーティデータ(1st Party Data)とは?
ファーストパーティデータとは、媒体社が自ら収集・保有するユーザーデータのことを指します。ユーザーの行動や属性に基づいて蓄積されたこの情報は、信頼性と精度が高く、広告施策において極めて重要な資産となります。
具体的には、以下のようなデータがファーストパーティデータに該当します。
- ログイン情報(会員登録時の属性)
- サイト内の閲覧履歴
- 記事や動画の視聴傾向
- アンケートや投稿から得られる嗜好データ
- 決済履歴や課金サービスの利用状況
これらのデータは、ユーザーが自社メディア上で自発的に示した興味関心や行動に基づいており、非常に質が高く、リアルタイム性に優れている点が特徴です。また、取得経路が明確なことから、プライバシー対応の観点でも安心して活用できるのが強みです。
ファーストパーティデータ(1st Party Data)の広告施策における価値
ファーストパーティデータの強みは、その即時性と信頼性に加えて、多様な施策に応用できる拡張性にあります。
たとえば、以下のような活用が可能です。
- 会員登録情報をもとにした年齢・性別ごとのターゲティング
- 閲覧履歴や再生完了率を使った関心カテゴリの抽出
- アンケートや購買履歴をもとにしたユーザーの嗜好・購買意欲の分析
特に広告分野においては、エンゲージメントの高いセグメントの構築や、コンバージョンの高い成果を実現できます。また、自社内でデータが完結するため、外部依存なく、透明性のある形で広告主に信頼性の高い提案ができるという点も大きな利点です。
ファーストパーティデータ(1st Party Data)は十分に活用できていない課題
多くのメディアがファーストパーティデータの重要性を理解しながらも、実際の活用には至っていないケースが少なくありません。いくつかの典型的な課題が、その背景にあります。
ボリュームが少ないという根本的な課題
ファーストパーティデータの活用において、最初に立ちはだかるのが「そもそもデータの登録数が少ない」という問題です。特に、ユーザーにとってのメリットが明確でない場合、個人情報の提供に積極的になってもらうのは難しく、結果として会員登録や属性情報の収集が進みません。このように、活用の前段階でつまずいてしまうケースが多くあります。
専門人材や体制が整っていない
データを活かすには、ユーザー個人ベースで情報を管理・活用できるようなシステムの導入だけでなく、それを設計・運用できる人材が必要です。しかし、メディアの現場では広告運用や編集、開発といった通常業務に追われており、専任チームを持つ余裕がない場合が多くあります。
データが分散している
会員情報、閲覧履歴、アンケート結果など、価値あるデータが各部署にバラバラに存在しているケースも少なくありません。このようなデータの分断により、全体を俯瞰した設計や分析が困難になり、結果として「何に使えるか分からない」状態に陥りがちです。
成果につながるイメージが湧きにくい
「データを集めれば広告単価が上がる」という理屈は理解されつつも、実際にどう活用すれば売上に直結するのか、その具体像を持てていないケースも多いです。特に、目に見える成果が短期では出にくい領域でもあり、社内の優先順位が下がりやすくなります。
プライバシー対応への不安
ユーザーの同意取得や個人情報の管理に関するリスクを懸念し、データ活用そのものを控えてしまうケースもあります。「万一が怖いから触らないでおこう」と判断されてしまうと、せっかく蓄積されたデータが動かせない資産になってしまいます。
広告マネタイズにおけるファーストパーティデータ(1st Party Data)の活用方法
広告収益におけるファーストパーティデータ活用の主なポイントは以下の通りです。
オーディエンスセグメントの構築
ユーザーの属性・行動に基づいたセグメントを作成し、広告主に対して「質の高いターゲティング枠」を提供可能にします。たとえば、「ゲームに興味がある30代男性」「ビジネス系コンテンツを週3回以上閲覧」といった具体性のあるセグメントは、広告主のニーズと直結しやすく、提案の説得力が高まります。
PMP(プライベートマーケットプレイス)での高単価販売
媒体独自のセグメントをPMP枠として販売することで、RTBと比較して高単価での販売が可能になります。広告主にとっては限定的かつ信頼性のある在庫へ配信でき、媒体側にはCPMの引き上げや在庫の安定供給といったメリットがあります。
ネイティブ広告やコンテンツ連動型広告との連携
ユーザーの関心とコンテンツ文脈をマッチさせることで、コンテンツと自然に馴染む広告体験を設計できます。たとえば、教育系コンテンツをよく閲覧するユーザーがそれらのコンテンツを閲覧している際に、学習サービスのプロモーションを自然に組み込むことで、CTRやCVRの改善が期待できます。
ファーストパーティベースのリターゲティング
Cookie規制の強化により、従来のサードパーティデータを活用したリターゲティング施策は効果が低下しつつあります。これに代わり、自社が保有するファーストパーティデータ(例:閲覧履歴や購入履歴)を活用し、ユーザーに対して関連性の高いコンテンツや広告を再提示する手法があります。これによりサイト内の回遊率や再訪率の向上が期待でき、結果としてLTV(顧客生涯価値)の最大化にも貢献します。
ユーザー特性に応じたマネタイズ戦略の最適化
ファーストパーティデータを活用すれば、「このユーザーは課金に至る可能性が高い」「このユーザーは有料登録や課金はしない」といった判断が可能になります。有料会員へのオファー訴求、広告ウェイトの調整、広告フォーマット(例:インタースティシャル)の出し分けなど、ユーザーの特性に応じたマネタイズが可能です。こうした柔軟な最適化こそが、ファーストパーティデータ活用の大きな強みといえます。
データ活用に向けた技術基盤と運用体制
ファーストパーティデータを収集・活用するには、適切な技術基盤と、それを活かすためのチーム体制の構築が不可欠です。単なるデータの蓄積にとどまらず、戦略的に活用できる状態へと昇華させるための仕組みを整える必要があります
- CDP(カスタマーデータプラットフォーム):サイト内外の行動データや会員属性、課金履歴などを統合し、オーディエンスの一元管理やセグメント作成を可能にします。広告配信だけでなく、UX改善やリテンション施策にも活用できます。
- CMP(コンセントマネジメントプラットフォーム):ユーザーのプライバシー保護意識の高まりに対応し、Cookie利用やデータ取得に関する適切な同意を取得・管理する基盤。グローバル対応も含め、広告配信やデータ連携の土台となります。
- タグマネジメント:複数のタグを一元的に管理・更新し、データ収集設計の柔軟性を確保します。変更対応のスピードを高めるだけでなく、タグによる計測の品質管理にも貢献します。
- 広告・開発・データ分析チームの連携体制:セグメント設計、ABテスト、配信結果の検証、改善施策の実行までを高速に回すためには、部門横断での連携が欠かせません。CDPや分析ツールを正しく使いこなすための役割分担と運用設計が必要です。
ファーストパーティデータ(1st Party Data)×IDソリューション
ファーストパーティデータ単独での活用に加えて、業界ではIDソリューション(共通ID)との連携による収益最大化の動きが進んでいます。
- Ramp ID(LiveRamp)やUID2.0(The Trade Desk)などのIDソリューションとの連携により、媒体横断でのセグメント構築や、広告主側のデータとのマッチングが可能になります。これにより、ターゲティング精度を保ちつつ、広告主にとっても価値ある在庫として評価されやすくなります。
- IDソリューションの活用は、Cookie非依存型の広告配信や効果測定にも有効で、今後の広告エコシステムを支える柱になると見られています。
- 一方で、プライバシーとのバランスを取るため、ユーザー同意の適切な取得、データの匿名化、利用範囲の明確化といったガイドライン遵守が前提となります。

IDソリューションが注目される理由 近年、広告業界を取り巻く環境は大きく変化しています。特に注目されているのが、サードパーティCookie(3rd Party Cookie)への規制強化と、トラッキング技術全般への制限強化です。AppleのITP(Intelligent Tracking P...
まとめ

脱Cookie時代の到来により、ファーストパーティデータはメディアの広告価値を再構築するうえで不可欠な資産となりました。従来は、技術・体制・理解の不足により活用が進んでいなかったものの、現在ではCDPやIDソリューションの進化、成功事例の蓄積により、具体的なマネタイズ手段としての実装が可能になりつつあります。
今後、メディアが競争力を維持・強化していくためには、ファーストパーティデータを「保有する」だけでなく「収益化する」段階へと進めることが求められます。データを活かす体制の整備、プライバシーへの適切な配慮、そして広告主とユーザーの双方にとって価値ある体験を提供することが求められます。
まずは、自社にどんなファーストパーティデータが蓄積されているのかを洗い出し、どこから手を付けられるかを明確にすることが、収益化への第一歩となるでしょう。