メディアから見るアドブロックとは?パブリッシャーサイドにおける機会損失と収益回復戦略

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アドブロックはメディアにとって深刻な課題

インターネット上の広告は、メディアにとって重要な収益源です。しかし近年、ユーザーの広告に対する意識変化とともに、アドブロック(広告ブロック)ツールの利用が急速に拡大しており、メディアにとって深刻な課題となっています。

たとえば、アメリカでは2024年時点でインターネットユーザーの約32.2%がアドブロックツールを利用しているという調査結果があります。

特に若年層やPCユーザーを中心にその傾向は顕著で、18〜24歳の層ではデスクトップでのアドブロック利用率が60%に達するとのデータも同レポートに含まれています。

As of 2024, 32.2% of U.S. internet users use ad blockers. Among 18–24-year-olds, 60% use ad blockers on desktop devices.
出典:Backlinko – Ad Blocker Usage Statistics

※日本語訳:2024年時点で、アメリカのインターネットユーザーの32.2%がアドブロックを利用しており、18〜24歳の層ではデスクトップに限ると60%が利用している。

一方、日本国内でも状況は進行しており、2025年1月にキーマケLabが実施した調査では、20〜70代のうち57.1%がアドブロックツールの存在を認知し、34.3%が実際に利用した経験があると報告されています。

20〜70代のうち57.1%がアドブロックツールの存在を認知しており、34.3%が実際に利用した経験がある。
出典:キーマケLab「アドブロックに関する意識調査」

このように、日本でも約3人に1人がアドブロックの利用経験がある状況は、メディアの広告収益に確実に影響を与えています。広告が表示されないことでインプレッションがカウントされず、収益に直結する損失が生じるため、メディア側は対応を迫られているのが現実です。

アドブロックとは?基本の理解

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アドブロックとは、Webサイト上に表示される広告を非表示にするためのソフトウェアやブラウザ拡張機能のことを指します。代表的なツールには「AdBlock」「Adblock Plus」「uBlock Origin」などがあり、ChromeやFirefox、Edgeなど多くのブラウザで利用されています。

さらに近年では、アドブロック機能を標準で備えたブラウザやスマートフォンアプリも登場しています。たとえば「Brave」や「Opera」などのブラウザは、初期状態から広告やトラッカーを自動でブロックする仕様となっており、追加設定なしで快適に閲覧することができます。

また、iOSでは2015年のiOS 9から「コンテンツブロッカー」機能が導入されており、Safariに外部のアドブロックアプリ(例:1Blocker、AdGuardなど)を組み込むことで、モバイルブラウジング中の広告も除去できるようになっています。

このように、アドブロックは単なる拡張機能の枠を超え、OSやブラウザレベルで幅広く実装される時代に入っています。

ユーザーがアドブロックを選ぶ背景

アドブロックの利用が広がる背景には、一部の過剰な広告表現がユーザー体験を損なっているという現実があります。

一部のメディアや広告掲載面では、突然表示されて閉じづらい全画面広告や、音声付きで再生される動画広告、スクロールするたびに差し込まれる大型バナーといった表現が見られます。こうした広告は、ユーザーの閲覧体験に干渉しやすく、不満やストレスの原因となります。このような体験があると、広告そのものに対する印象が悪化し、他のメディアの信頼にも影響を及ぼしかねません。

行動履歴をもとに広告を表示するリターゲティング技術も、ユーザーの感じ方によっては不快感やプライバシーへの不安を生むことがあります。たとえば、「一度見た商品が、まったく別のサイトでも何度も表示される」といった状況に違和感を覚えるユーザーも少なくありません。

また、スマートフォン環境では、広告が表示されることでページの読み込みが重くなったり、通信量やバッテリーの消費が増えたりするといった点も、アドブロックが選ばれる理由のひとつとなっています。

アドブロックは、単なる便利機能ではなく、ユーザーが広告との距離を置きたいと感じたときの自衛手段として定着しつつあるのです。

アドブロックの影響がメディアに及ぼすもの

ユーザーにとっては快適さを得られる便利なツールですが、メディアにとっては本来得られるはずだった広告収益を失うリスクを含んでいます。

多くのWebメディアは、広告による収益によって記事やコンテンツを無料で提供しています。アドブロックの普及によって広告が表示されなくなると、インプレッションが発生せず、クリックや成果も失われ、収益に直結する損失が生じます。

加えて課題となるのが、広告だけでなく、Google アナリティクスなどの計測タグやアクセス解析ツールもブロックされる場合があることです。そのため、「どの程度アドブロックが利用されているか」を正確に把握するのが困難なケースもあります。

さらに、アドブロックツールは有名な拡張機能やブラウザアプリにとどまらず、個人が開発・公開している軽量なスクリプトや、ユーザー自身が設定できる高度なフィルタールールなど、非常に多様な形態が存在します。その挙動もツールごとに異なり、広告側で一括した対応を取ることが難しいのが現状です。

この「ユーザー体験の向上」と「メディアの収益構造の維持」のバランスは、アドブロックの普及が進むなかで、今後ますます重要な課題となるでしょう。

アドブロックによるメディアの機会損失とは?

アドブロックの普及は、メディアの収益機会を確実に削っていく課題です。

アドブロックが有効化されると、広告リクエストが発生しないため、メディア側はそのユーザーがアクセスしていることに気づくこともありません。つまり、インプレッションが発生せず、そのユーザーの存在自体が認識されないまま、見えない損失が積み重なっていきます。

実際に、34.3%のユーザーがアドブロックを利用しているというデータをもとに計算すると、メディアの収益の約3割がアドブロックによって失われている可能性があることになります。加えて、ツールによっては、広告が実際には表示されていないにもかかわらず、実際にはインプレッションが発生しているケースがあります。

これは広告主側にはコストがかかり、実際には表示されていない広告に対して料金が発生しているという、不公平な状況です。このような場合、ユーザー側の意図とは裏腹に、広告主やメディアに無駄なコストがかかり、関係者間で不満が生じることになります。

アドブロック対策:メディアが取るべき施策

アドブロックによる損失を抑えるために、メディアが講じるべき対策にはさまざまな手法がありますが、本記事では主に次の2つに注目します。

1.アドブロック解除を促すメッセージの表示

アドブロックを使用しているユーザーに対して、広告の重要性を伝えるメッセージを表示し、解除を促す方法です。

このアプローチにはいくつかのスタイルがあり、「広告収益で運営しています。ご理解とご協力をお願いします」といった協力をお願いする柔らかい表現や、「アドブロックを解除しないと、記事は閲覧できません」といったコンテンツの閲覧制限を設ける強いメッセージなど、メディアの方針や読者層に合わせて選択されます。

このような機能はGoogle Ad Manager(GAM)にも搭載されており、アドブロック検出時にカスタムメッセージを表示することが可能です。また、GAM以外にも同様の機能を持つツールやスクリプトがあり、導入のハードルも低めです。

公式ヘルプ:https://support.google.com/admanager/answer/10711849?hl=ja&sjid=4273463766413212969-NC

2.アドブロック検出・回復ツールの導入

より高度な対策として、BlockthroughやAdRecoverなどのアドブロック検出・回復ツールを導入する方法があります。

これらのツールは、アドブロックを使用しているユーザーを検出し、通常は表示されない広告を再度表示させる仕組み(回復)を提供します。たとえば、以下のようにツールごとにアプローチはさまざまです。

  • Acceptable Ads(許容可能な広告)プログラムにより、ユーザーが気づかないうちに一部の広告が表示を許可されているケース
  • ブロックされる位置に、構造を変えたり、検出されにくい形で生成した広告要素を差し込む手法など

また、多くのツールは、Better Ads Standards(ベターアズ)といった業界ガイドラインに準拠した「ユーザーに配慮した広告」の配信を前提としており、快適な閲覧体験を損なわない範囲での広告回復が行われています。

まとめ

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アドブロックは、ユーザーにとって快適な閲覧体験を提供する一方で、メディアにとっては見えない損失を生み出す深刻な課題です。広告収益の低下、インプレッションの欠損、効果測定の不正確さなど、さまざまな影響がメディアの運営にのしかかっています。

さらに、収益を守るために広告枠が増えるといった施策が、結果としてアドブロックを使っていないユーザーの体験を損なうというジレンマも存在します。

こうした構造を踏まえると、アドブロックは単なる「広告の非表示」ではなく、広告とユーザー体験、メディアの健全な運営すべてに関わる問題だといえるでしょう。メディアとしては、アドブロックの存在を前提に、以下の取り組みが今後ますます重要になります。

  • ユーザーに対して丁寧に広告の役割を伝える
  • 収益を守るための技術的・戦略的な対策を講じる

「広告は邪魔だから消せばいい」では済まされない時代。アドブロックとの向き合い方こそが、メディアの未来を左右する一つの鍵となるかもしれません。

writer
Manegica 事務局

「goo」や「dmenu」をはじめとしたメディアに対して、マネタイズ運用の支援を実施しています。長年のメディア運営によって培ったノウハウや、自社で開発したソリューションを活用し、メディア収益の最大化を実現します。

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