ユーザーエクスペリエンス(UX)を損なわない広告体験設計の基本
ニュースサイトを開いて記事を読もうとしても、動画配信サイトで動画を見ようとしても、広告が次々に現れます。最近のウェブは、コンテンツより広告のほうが目立ってしまう瞬間が少なくありません。
しかし、広告がなければ多くの無料サービスは成り立たない現実もあります。
だからこそ、広告は収益の仕組みである前に、ユーザー体験の一部として設計されるべきです。本来、広告は企業のメッセージを伝えるだけでなく、ユーザーにとっても新しい情報を知る情報源であるはずです。
この記事では、広告が嫌われる存在にならないために、UX(User Experience)を損なわない広告設計の基本を考えたいと思います。
なぜ広告のUX(User Experience)が重要なのか

ウェブサイトを閲覧する際に、「広告が多すぎて邪魔だ」「間違ってクリックしてしまう」「コンテンツの途中で急に広告が流れて不快だ」など、筆者も、そんな声を聞くことが増えたと感じます。
確かに、広告は視認性を高めるほど成果が上がる側面があります。
しかしその一方で、ユーザーが抱くストレスや嫌悪感は、ブランドや媒体全体への信頼関係にも影響を及ぼします。
本来、広告は「伝えるための手段」であり、ユーザーにとっても「情報源」なのです。
それがいつの間にか、「邪魔」として受け取られるようになってしまいました。
原因の多くは、短期的な収益増を優先するあまり、UX設計の視点が置き去りにされてしまったことにあります。
再び原点に立ち返り考えてみたいと思います。
「広告を出す」ではなく、「体験を設計する」という発想が重要なのです。
UX(User Experience)を損なわない良い広告設計の基本
UXを損なわない広告には、いくつかの共通点があります。まず大切なのは、ユーザーの行動の流れをしっかり理解することです。コンテンツを「読む」、「見る」、その流れの中に自然に溶け込むような設計が理想です。
記事を読み終えた後、下部に現れるレコメンド型広告や、ECサイトで購入完了後に表示される関連商品の紹介など、タイミングを見極めた表示は、ユーザーに押しつけ感を与えません。
広告が割り込むのではなく、添えるように存在することが、UXの原則です。
また、デザイン面では、誤解させないことが大切です。
コンテンツと広告の境界をあいまいにせず、「PR」「広告」などの表記をきちんと示すことで、ユーザーは安心してコンテンツと向き合うことができます。
誤認させず、誠実に伝えることが、長期的な信頼を築きます。
UX(User Experience)を向上させるための技術的な工夫

良いユーザー体験を提供するには、見た目だけ良くするのではなく、裏側の技術的対応もとても重要です。
1.表示速度の最適化
まず意識したいのが、表示速度の最適化です。
広告タグがページの読み込み自体を遅らせると、ユーザーはコンテンツ閲覧に時間がかかりストレスを感じます。
そのため、広告の非同期読み込みやLazy Loadを活用して、コンテンツの体験を最優先にしましょう。
広告だけでなく、コンテンツにも影響する広告表示速度。意外と知られていない広告表示速度の改善で何が起こるのかを解説します。 広告表示速度とは 広告表示速度とはページを訪問してから広告が表示されるまでにかかる時間を指します。広告表示は速いと0.1秒ほどで表示され、遅いと数秒かかるこ...
2.CLS(Cumulative Layout Shift)の視点
次に、CLS(Cumulative Layout Shift)の視点です。
コンテンツが表示された後に、広告が後から挿入されてページがガクッとずれると、ユーザー体験の流れが途切れてしまいます。また、誤クリックも招きます。
あらかじめ枠の高さを確保するなど、見えない部分での設計配慮が欠かせません。
これはGoogleが提唱するCore Web Vitals(コアウェブバイタル)でも重視されており、ユーザー体験を数値で評価するうえでも重要な要素とされています。
3.音声付き動画広告
そしてもう一つ、音声付き動画広告に関してです。
自動再生で突然音が鳴る広告は、多くのユーザーを驚かせ、不快な体験となってしまうことが多いです。
音はデフォルトでオフにし、再生開始はスクロールなど、ユーザー操作をトリガーにすると受け入れやすいです。
ただし、たとえばYouTubeやTVerのようなテレビ動画と同じようなインストリーム環境では、すでに音声をオンでコンテンツをみているので、広告の音声がオフだと、逆に違和感を感じます。重要なのは、広告が流れるコンテンツに応じて音声のあり方を設計することです。
広告の頻度とバランスの最適化

ウェブサイトを閲覧している際、「広告の数が多いな」と感じることがあります。画面の小さなスマートフォンでは、ひとつの画面内に複数の広告が表示され、結果としてコンテンツよりも広告が占める割合のほうが大きくなることもあります。
ページあたりの広告量にも限度があります。画面の半分以上が広告で埋まってしまえば、どんなにコンテンツの内容が良くても読まれません。
広告をたくさん見せることで一時的な収益にはつながりますが、広告があっても気持ちよくコンテンツを見られることが前提です。ページから離脱されてしまえば、それだけ収益機会も失われますし、サイトへの再訪も期待できません。
ユーザーがストレスを感じずにコンテンツへ集中できる環境こそ、結果的に広告の価値を高めることにつながります。
UX(User Experience)とブランドセーフティで媒体の信頼を守る

UXを重視することは、広告の信頼を守ることでもあります。
不適切なコンテンツの隣に広告が表示されれば、広告主のブランドの印象は一瞬で損なわれます。
そのため、ブランドセーフティ(Brand Safety)と呼ばれる取り組みが欠かせません。広告主も代理店も、配信面の品質を重視しているので、出稿自体が減少してしまいます。
ブランドセーフティ違反を繰り返す媒体は、SSPやDSP側から配信を制限されるリスクもあります。SSPは広告主やDSPの信頼を守る立場でもあるため、品質の低い面を自動的に除外する仕組みを持っています。
センシティブな話題や暴力的な表現を避けるフィルタリングを行い、広告主が安心して広告を配信できる環境を作っていきましょう。
また、IVT(Invalid Traffic:無効トラフィック)への対策も、信頼を守る上で欠かせません。
不正なボットやアドフラウドを排除することは、広告の価値を守ることに直結します。
こうした環境を放置すれば、広告主の信頼を失い、配信の評価が下がるだけでなく、SSPやDSP側からの制限対象になることもあります。
こうした品質の担保は、グローバルではIABやTAG、日本国内ではJICDAQ(一般社団法人デジタル広告品質認証機構)などが中心となって進めています。
JICDAQ:https://www.jicdaq.or.jp/
前段のUXに加え、トラフィック品質も重要というのが広告収益で成り立つメディアには大事な視点です。
まとめ
正直、最近のウェブは広告であふれすぎていると感じます。
スクロールしてもスクロールしても広告…。コンテンツよりも目立つ広告が、ユーザーにストレスを感じさせています。
けれど、広告そのものが悪いわけではありません。
問題は、広告の「設計」と「秩序」を置き去りにしてしまっているケースがあることです。広告が金儲けの道具になってしまうと、広告すべてが嫌われてしまうのです。
たしかに、アドネットワークやSSPの仕組みは便利です。
タグを貼るだけで収益が生まれ、情報発信者も手軽にマネタイズをすることができます。
しかし、その手軽さゆえに目先の収益ばかりを優先してしまうと、ユーザー体験を損ない、結果的にサイト全体の価値を下げてしまうのです。
UX、技術、ブランドセーフティ、トラフィック品質と言った要素が、ウェブ広告を信頼できる情報として機能させるために必要です。
広告をメディアの一部として正しく設計することが、持続的な価値を生みます。
ユーザーに寄り添い、ユーザー体験を壊さず秩序を保つ。 そんなウェブ広告が増えていけば、もっと多くの人が自然に広告を受け入れ、楽しめるようになると思います。

